機構の目的と事業の内容(事業実施計画書より抜粋・編集)
機構の目的
NEDO17年度「健康安心プログラム」の事業委託を受け、「次世代DDS型悪性腫瘍治療システムの研究開発」を行う。
本事業において、臨床的に実用的な熱・熱外中性子源としての病院内設置が可能な加速器を開発し、あわせて治療効率を高めるための新しいホウ素キャリアとしてのDDS製剤の開発、および中性子捕捉現象を利用した抗ガン剤のコントロールリリースの技術を開発し、正常組織への損傷を極力抑えたガン細胞選択的な効率の良い悪性腫瘍治療システムを開発する。
事業の内容
近年、我が国の疾病構造は感染症などの急性疾患が減少した反面、ガンや循環器病・糖尿病などの生活習慣病が増加しており、その中でも予期せぬガンの発症は多くの国民の潜在的健康不安として存在している。実際、1年間に30万人以上がガンで亡くなっており最も解決の迫られている疾病となっている。
ガン検診の普及、早期診断・早期治療、さらには初期治療としての手術・放射線・化学療法の進歩によって、ある程度治癒率の改善がみられるものの、化学療法では全身的な副作用との戦い、放射線治療では照射野内の正常組織の損傷の問題が常に存在する。
このため、このような問題を解決し、患者の生活の質(QOL)を確保しながらガン細胞のみを確実に標的とするガン細胞の選択的治療システムの開発が急がれてる。
そのような中、エネルギーの低い熱・熱外中性子線(この線源そのものは細胞をほとんど損傷しない)とホウ素との核反応によって生じる強力な粒子線を用いるホウ素中性子捕捉療法(BNCT療法)が、ガン細胞のみを攻撃する理想的な治療法として臨床試験的に行なわれている。
しかしながら、この治療に必要な比較的に大線量の低エネルギー中性子線が、現状では原子炉からしか得られないためBNCT療法は病院内ではなく現在は原子炉施設でのみ行なわれている。この理想的なガン治療を病院内で可能とするため、原子炉と同程度の中性子線が得られる小型粒子加速器の開発が数十年に亘って求められているが、加速器開発等の技術的課題から今なお実現するに至っていない。このような現状を背景とし、本事業では、
1)病院内設置が可能な中性子源として、固定磁場強収束 (FFAG) 方式とエミッタンス回復型内部標的(ERIT:Emittance Recovery Internal Target)方式による加速器システムにより、これまでより2桁程度少ないビーム電流で臨床的に使用可能な中性子線量が得られるBNCT療法用小型加速器の開発、及び中性子線輸送・制御システムの開発と、
2)これと相補的に用いるDDS薬剤として、選択性・滞留性・徐放性を飛躍的に向上させガン細胞を確実に治療し、更に転移・再発を抑止するための免疫力付与機能を持たせた新しいタイプのホウ素DDS製剤の開発を、有機的に結合し、
よって正常組織の損傷を最小限に抑制しながら最大限のガン治療効果を得るためのトータルな治療システム---次世代DDS型悪性腫瘍治療システム---の研究開発を行う。